不安・うつ・イライラに効く漢方処方まとめ【症状別に解説】

1.はじめに:現代社会の「こころの不調」と漢方
ストレス社会、孤独感、過労、SNS疲れ——私たちが抱える心の負荷は年々増大しています。不眠、不安、落ち込み、やる気の低下、焦燥感、イライラなどは、心の問題であると同時に「身体の不調」とも深く結びついています。
漢方では、こうしたメンタルの乱れを「気・血・水」のバランスの崩れと捉え、体と心を一体として調整するというアプローチをとります。本記事では、精神的な不調に対応する代表的な漢方処方やその考え方をご紹介します。
2.漢方における「心の症状」とは?
漢方医学では、メンタルの問題も「証(しょう)」という体質・状態の分類により診断します。たとえば以下のようなパターンが考えられます。
証の種類 | 典型症状 | 漢方的解釈 |
---|---|---|
気虚(ききょ) | 疲れやすい、やる気が出ない | エネルギー不足で精神活動が低下 |
気滞(きたい) | イライラ、胸のつかえ、怒りっぽい | 気の流れが滞っている |
血虚(けっきょ) | 不安、不眠、物忘れ | 血が不足し、脳や神経を栄養できない |
陰虚(いんきょ) | 焦り、不安感、のぼせ、寝汗 | 身体を冷やす水分・栄養が不足 |

心の不調は単独ではなく、複数の証が混在することがほとんどです。
3.不安・うつに用いられる代表的な処方
抑肝散(よくかんさん)
- 主な構成生薬:柴胡、釣藤鈎、茯苓、当帰、川芎など
- 適応:イライラ、神経過敏、不眠、認知症の興奮状態
- 解説:自律神経のバランスを整え、精神の高ぶりを鎮める。子どもの夜泣きや老人の興奮状態にも使われる。

加味逍遙散(かみしょうようさん)
- 主な構成生薬:柴胡、当帰、芍薬、甘草、牡丹皮、山梔子など
- 適応:不安感、月経前のイライラ、ストレスによる疲労
- 解説:「気滞+血虚」タイプに。女性の更年期障害やPMS(生理前症候群)にもよく使われる。

桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
- 主な構成生薬:桂皮、竜骨、牡蛎など
- 適応:不眠、動悸、不安、夢が多い、神経過敏
- 解説:虚弱体質の男性に多く、受験ストレスや心配症の人にも用いられる。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
- 主な構成生薬:柴胡、竜骨、牡蛎など
- 適応:怒りっぽい、緊張しやすい、感情の起伏が激しい
- 解説:肝(=情緒)を鎮め、精神の興奮を抑える。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
- 主な構成生薬:半夏、厚朴、蘇葉など
- 適応:喉のつかえ感、言葉が出にくい、社交不安
- 解説:「ヒステリー球(梅核気)」に対応。現代でいうストレスで喉が詰まるような感覚に。

4.不眠・焦燥感に対する処方
酸棗仁湯(さんそうにんとう)
- 構成生薬:酸棗仁
- 適応:眠れない、寝付きが悪い、眠りが浅い、不安
- 解説:血虚・心陰虚による不眠に。「脳を滋養して眠りを導く」処方。
甘麦大棗湯(かんばくだいそうとう)
- 構成生薬:小麦、甘草、大棗
- 適応:不安感、悲しみ、過敏反応、ヒステリー様症状
- 解説:子ども・女性に多い繊細な神経をなだめる。心を温め安心させる処方。

5.心身一如――身体を整えることで、心が落ち着く
漢方では「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉が重視されます。
胃腸の不調が精神を不安定にし、逆に精神の不調が身体の不調を招く——この双方向性を調整するのが漢方です。
たとえば、「疲れると気分が沈む」「冷えとともにイライラが増す」というのは東洋医学では自然な解釈です。
漢方は単に「気分を改善する薬」ではなく、全身のバランスを整えることで、結果としてメンタルが安定するというプロセスを重視しています。
6. 西洋薬との違いと併用の可能性
視点 | 漢方薬 | 向精神薬(抗うつ薬など) |
---|---|---|
即効性 | 穏やか(1〜2週間〜) | あり(数日〜1週間) |
副作用 | 比較的少ない | 眠気、吐き気、依存などあり |
長期使用 | 比較的安全 | 医師の厳密な管理が必要 |
心身両面へのアプローチ | ◎ | △ |
ただし、安易な自己判断による併用は危険です。特に甘草を含む処方と利尿薬、SSRIとの併用には注意が必要です。医師・薬剤師に必ず相談しましょう。
7.ケース別おすすめ処方例
症状・タイプ | 処方例 | 補足 |
---|---|---|
緊張しやすく怒りっぽい | 抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯 | 肝の高ぶりを抑える |
イライラして眠れない | 加味逍遙散+酸棗仁湯 | 女性ホルモンバランスにも対応 |
ストレスで喉が詰まる | 半夏厚朴湯 | 梅核気の典型 |
悲しみ・過敏で涙もろい | 甘麦大棗湯 | 小児にも使える優しい処方 |
眠れず気分が不安定 | 桂枝加竜骨牡蛎湯 | 虚弱体質向け |
8.まとめ:こころと身体を一緒に見つめる漢方の力
不安やうつ、イライラは、単なる「こころの病」ではなく、身体のバランスの崩れが引き起こしている信号かもしれません。漢方はそうした全身的な不調の「ゆらぎ」に働きかけることで、根本的な改善をめざします。
即効性よりも、じっくり体と心を整えていく方法を探している方には、漢方のアプローチが一つの助けになるかもしれません。
まずは自分のタイプ(証)を知るところから始めてみませんか?
そして、専門家と一緒に「自分に合った処方」を見つけることが、心の安定への第一歩となるでしょう。